ショコラ~恋なんてあり得ない~
店内に入ってから三十分。
テーブルにはあたしが飲んだ二杯のビールの空きグラスと、焼き鳥の串ののった皿。
まだ残っているのはサラダと、唐揚げと枝豆。
それに、彼の一杯目のカクテルとあたしの三杯目のビール。
「で、さっきはなんで怒られてたの?」
もはや敬語はどこかに行き、すっかりくだけてしまったあたし。
「えっとねー。ほら、午前中子供たちと店に行ったでしょ? あの件で」
「喫茶店に連れてきたって事?」
「じゃなくって。ほら、本当は今日休みだったんだけどさ。希望者募って、地図作りをしたんだよね」
「え?」
「自分の住む町の地図を作るんだ。今ね、地図記号とかの勉強を社会でさせてて」
「へぇ」
宗司さんの目が、あたしの方を向いた。
だけど、見てるのはあたしじゃない。
どこか遠く。
そうね、きっと、今日子供たちと一緒に歩いた景色でも見てるのかしら。