ショコラ~恋なんてあり得ない~
「宗司さん、あんまり飲まなかったじゃないの。お金無いのかなと思って」
その途端、宗司さんの顔がぐしゃりと緩んで噴き出した。
ちょっと何よ。本気で心配してるのに。
「あはは。違う違う。俺あんまり飲めないんだよ。
詩子さんがいい飲みっぷりだから楽しかったよ。たくさん飲んだ気分になった」
「あ、そう?」
楽しんでんならいいけど。
でも人が飲んでるの見て楽しいか?
なんというか平和的な思考の持ち主だなぁ。
「じゃ、いいわ」
歌でも歌うようにそう言って、また彼に背中を向けた。
あんまり近すぎる距離には居たくない。
さっきみたいに、変にドキドキしたら嫌だもん。
あたしは公園の並木に沿って歩き出した。
散り終えた桜は青々しい葉をつけ、まだかすかに地面に花びらが残っている。
「ねぇ、宗司さん」
「ん?」
穏やかに笑う男は、両手をポケットに突っこんだままゆっくりとあたしの後をついてくる。