ショコラ~恋なんてあり得ない~
「宗司さんってば!」
残りの距離を一気に近付いて、彼の腕を引っ張る。
最初に見えた彼の顔は、苦しそうに歪んでいて。
だけど、瞳の焦点があたしに合った時、彼はその歪みを微笑みで隠した。
「……宗司さん」
「詩子さんは、いいね」
「なによ、それ」
「……ホントにそうだよね。俺、どうしようもなく優柔不断なんだよね」
ポツリと呟いて、今度は彼が先に立って歩き出した。
ずっと自分が前を歩いていたから、彼の背中をゆっくり見るのはこれが初めて。
大きくて広い肩は、堂々たる男の人のもので、どこか厳格な空気さえかもしだす。
情けないと思っていたあの表情が彼の雰囲気をどれほど和らげてくれていたのか、初めて気がついた。
それ以上、言葉を重ねることが出来なくなって、あたしは小走りについて行った。