ショコラ~恋なんてあり得ない~
もうひと踏ん張り、と意気込んだところで後ろから手を掴まれる。
「きゃっ」
「詩子さん、一人じゃ……危ないって」
息を切らせた宗司さんが、あたしの腕を掴んでる。
再び、あの変なドキドキが襲ってきて、頭がカーッとなって。
ほらこれは、あれよ。酔って走ったからよ。
なんて、誰にいう訳でも無いのに頭で勝手に言い訳する。
「家まで送るから」
「も、そこだもん。あの、白い壁のい……」
ふーっと、頭の中で何かがはじけたみたい。
急に吐き気がこみ上げて来て、油汗が湧き上がる。
「え? 詩子さん」
「ちょっ、きもち悪……」
ああ、なんで後数分頑張って走らなかったんだろうか。
そうしたらこんな家のすぐ直前で、お粗相することなんかなかったのに。
慌てふためく宗司さんをよそに、あたしは、せめて道路のはじっこにと電信柱に身を寄せて、こみ上げてくるモノを吐き出した。