ショコラ~恋なんてあり得ない~
「でも詩子は今までと違うじゃん」
「え?」
「お客にあんなに心底から愛想良いの初めて見た」
「……マサ」
どうにも見透かされている。
ああもう、コイツのこんなところがキライ。
ケーキにしか興味ないような顔して、案外気配りしてるんだもの。
「とにかく何でもありません。店の掃除してくる」
逃げるように厨房から飛び出すと、どこへ行っていたのか親父が入ってきた。
「どこ行ってたの」
「ああ、牛乳が足りなかったから買って来た」
「何だ、電話くれれば出勤するとき買ってきたのに」
「まあ、マサの邪魔するのもなんだから。見てるとつい口出したくなってな」
「ああ、そういうこと」
「コーヒーいれるか。お前も飲むか?」
「うん。でも先に掃除する」