ゼロクエスト ~第2部 異なる者
いつもの術力だった。
咄嗟のことだったので加減が出来ず、出力時には強い負荷がかかっていたはずだ。
その手応えを確かに感じていた。
つまり私の術力が、いつの間にか戻っていたのである。
『一時的に、術が使えなくなっているだけだと思う』
彼女の言葉を思い出す。
本当に一時的なものだったのだろうか。それとも偶々、使えるようになっただけなのか。
何れにせよルティナには、後で詳しく訊いてみなければならなかった。しかし今は逃げることに専念しなければならない。
息が上がってくる。意識も朦朧として、前もよく見えなくなってきた。
いつ背後から攻撃をされるのか分からない。
敵がどのくらいの距離まで縮めてきているのか、それを確認する余裕さえもなかった。
心臓から伝えられる鼓動が、有り得ないくらいの速さで動いているのが分かる。
それでも今の私は余計なことを考えず、限界まで足を動かすしかないのだ。
だが自分の意に反し、地面へ向けて身体が傾いていた。
どうやら何かにつまずき、足がもつれてしまったようだ。
直ぐに体勢を立て直そうとしたが、疲れ切った身体ではどうにもならなかった。
そのまま勢いよく倒れ込む私。顔面から滑り込んだために皮膚を擦り剥いてしまったが、そんなことに構っている時間はない。
私は起き上がろうとした。
が、焦る気持ちとは裏腹に、一度崩した身体は、言うことを聞いてはくれなかった。
しかし。
「……は……あれ?」
私は異変に気付き、顔を上げた。
そして肩で息をしながら辺りを見回してみる。