ゼロクエスト ~第2部 異なる者





「―――ナ………さいよ」


強い力で揺り動かされたあたしは、突然現実に引き戻された。

「もう出発する時間なのよ」

目の前には覗き込んでいる彼女――エリスの顔があった。

あたしは左眼を押さえながら、むくりと起き上がる。

手の平に当たっているのは、いつもの感触。

「ちょっと、あんたたちもほら、さっさと起きなさい」

彼女は直ぐに場所移動をすると、狭いソファーで折り重なるように、仰向けで寝ている二人のことも起こしにかかっている。

だが二人――アレックスとエドは、強く揺さぶられていても、一向に起きる気配がなかった。

一体どんな夢を見ているのか。

二人とも幸せそうな顔でスヤスヤと、気持ち良さそうに熟睡していた。

全く呑気な奴らだ。

エリスが揺すっていた手を、ぴたりと止める。そして息を静かに吸い込み、深く吐き出したかと思った瞬間。


「はっ!!」


ドゴッ!!!


気合いを入れるかのような掛け声とともに、二人の顔面へ両拳を垂直に、勢いよく振り下ろしたのである。

流石のあたしでも、その光景には目を疑っていた。

何故なら彼女の正拳突きが、素人にしてはかなり綺麗に決まっていたからだ。
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