ゼロクエスト ~第2部 異なる者



あたしは着ている道着の内ポケットから、光属性精霊石(レイストーン)と『精術札(スピリットカード)』を取り出した。

そして石を重ね合わせ、意識を瞬間的に集中させる。

精霊名を唱えると同時にカードが消え、代わりに光球がひとつだけ現れた。



「ほら、目的地が見えているぞ。すぐそこだ」

彼の抗議を軽く無視したあたしは、浮遊させているソレを前へ掲げてみせた。

アレックスは「む…そうか」と呟きながら、釣られてそちらを見遣る。

前方一面、広い範囲にまで広がっている白濁色の濃い霧。

木々の隙間から光球に反射し、その姿をくっきりと浮かび上がらせていた。



それがモンスター・ミストだ。



あたしはこの方向から、ずっと強いエネルギーを感じていた。

近づくにつれ、あたしの眼の疼きも徐々に強くなっている。

下位クラスの魔物が集まってくるのは、その影響であり本能的なものだ。

とはいえ、この付近で魔物が彷徨いている様子はなかった。

ここへ辿り着く前に、投入されている他の術士たちに狩られているからだ。

それに見張りの騎士も居ないようだ。

もっとも、今までも見張りを置いていなかったから、今回も居ないだろうとは思っていたが。

周囲では術士が戦っており、この場所へ近付く魔物やヒトも殆どいない。

仮にいたとしても、両者とも霧の中へは入ることができないのだから、余計な人員を割いてまで見張りを置く必要がないのだ。
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