ゼロクエスト ~第2部 異なる者
第5章 異なる者(エリス編)
第1節 存在する者
「やはり人間か」
地面で微睡みに飲み込まれそうになっていたが、その声で無理矢理覚醒させられた。
頭を動かしたくなかった私は眼球だけを傾ける。
無数に咲く色とりどりの花の隙間から、黒いブーツのようなものが覗いている。
先程聞こえてきた低音は男性のものだ。
人間? 或いは魔物か?
だが今の私にとってはどうでもいい。
それを確かめる気にもなれない。
「ここはヒトが来て良い場所ではない」
声は頭上で聞こえてきた。先程よりも近い。
「どうやら既に、瘴気には侵されているようだな」
(瘴……気……)
私は朦朧としている意識の中で、その言葉だけを反芻(はんすう)していた。
それが意味のない行為だということが、頭の何処かでは分かっている。しかし何故か止められない。
閉じかけた瞼の裏側では、黒い影が蠢いているような気がした。
すると、身体が急に軽くなる。意識も鮮明になってきた。
「な……今、何を……!」
驚いた私は、そのまま勢いよく身を起こした。