ゼロクエスト ~第2部 異なる者
結界―――。
『あたしが、あの中にいるヤツに用があるからだ』
不意に彼女の言葉を思い出す。
そうか。
もしかしたらこの場所は、そしてこの魔物が。
「ルティナの言っていた……」
「ルティナ?」
思わず口に出してしまったことに気付き、私は慌てて顔を逸らした。
魔物ハンターである彼女の『用』というのは、素人の私でも簡単に想像がつく。
なのに部外者である私が敵の前で、不用意にその名を口走ってしまった。
「成る程な」
(……あれ?)
その声に驚いた私は、反射的に顔を上げた。
たった一言の呟き。
先程までは冷たい印象だったが、その言葉の中には少し、柔らかさのようなものも含まれている気がしたのだ。
だが表情を見ると先程同様、冷めた眼差しを向けている。私の気のせいだったのだろうか。
「大陸三大国、何れかの差し金かとも思っていたが……あの娘(こ)か」
魔物は私から身体を離すと、背を向けた。
だが私は見た。後ろを向いた瞬間に、彼の口角が少し上がっていたのを。
やはり先程のアレは、気のせいなどではない。
「ルティナを知っているの?」
「当然だ。隻眼の魔物ハンター『キラー・アイ』の名は、俺の元にも届いているからな」
再び抑揚のない口調が返ってくる。
「再度問う。結界(モンスター・ミスト)を破ったのは、君の能力(ちから)か?」
先程よりも、更に強い口調だった。
翼越しからこちらを窺うように覗いている瞳も揺らぐことなく、冷ややかだ。