ゼロクエスト ~第2部 異なる者
第2節 瘴気の森
道のない場所をただひたすらに、私は気配の感じる方向だけを目指していた。
途中で何度も遠ざかりそうになってしまい、その度に補正しつつ歩いている。
足を踏み入れてから1時間くらいは経過しているが、一向に景色の変わる様子もない。
しかも何だか先程から、同じ場所をグルグルと廻っているような気も―――いやいやいや、ここで弱気なことを考えてはいけなかった。
瘴気はそのような「隙」が生まれる瞬間に入り込んで、精神を狂わせるという話である。
例えあの魔物の術で防いでいたとしても、なるべく「ポジティブ思考」で行かなければならないのだ。
私はそのことを肝に銘じながら、慎重に茂みを掻き分けていた。
そんなことを色々考えている間にも、ようやく薄暗かった空間から一転、目映い光が飛び込んでくる。
すると急に黒い影が、視界を遮ってきた。
次いでソレと目が合ってしまう。
ひとつ瞬きをする、大きな黒いつぶらな瞳。
突然のことに吃驚した私は、腕を思いっきり振り回しながら悲鳴を上げてしまった。
そんな私に更に驚いたのか、ソレは慌てた様子で……しかし風船のようにふわふわと、上空へ浮かび上がっていく。
「君は……やはりまだ居たのか」
溜息混じりの声とともに、視界の戻った私の前に現れたのは、黒い翼の魔物だった。