ゼロクエスト ~第2部 異なる者
そこには私の身長の倍くらいはあろうかという魔物が、のそりと暗闇から姿を現しているところだった。

巨漢である全身は茶色の体毛で覆われ、その鋭爪はひと薙ぎで、人間の身体をいとも容易く引き裂けるらしい。

熊と非常に類似した容姿の魔物、ベアベアだ。

大きな角が額に1本生えているので、熊との区別は安易につく。

だがこの魔物、普段は人気のない山奥にしか生息していないと言われている。

何処から入り込んできたのかは知らないが、人里のある山間部などには、滅多に下りてこないらしい。

そう言えばもし遭遇してしまった場合には、その場で「死んだふり」をすれば気付かれないという噂もあるが、本当なのだろうか。

しかし実際に出遭ってしまったなら、そんな余裕は皆無に等しい。

それを今、私は身をもって体験していた。

せいぜい尻餅をついて、その動向を見守ることしかできない。



(どどどどどうしよう)

今の私では、魔物を倒すことができない。精霊術が使えないからだ。

かなりの心細さを感じている私の心臓は、激しく波を打っていた。

全身から冷や汗も吹き出してくる。
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