ゼロクエスト ~第2部 異なる者
「しかし剣があのようなことになろうとは……どうしたら簡単に熔(と)けるというのだ」
アレックスは「信じられない」とでもいうような顔付きで溜息を吐きながら、傍らのベッドに置かれている鞘に視線を移した。
そこには鞘に収められたままの長剣(ロングソード)があった。
それは彼が普段使っている、柄に精霊石の填め込まれた剣である。
「これは我が先祖である『水の精霊(ウンディーネ)』の加護を受けし、英雄が使用したと言われている剣だ。
無論手入れは毎日欠かしたことがなく、簡単に熔けるような刃でもないはずなのだが」
あの時。
短剣を失った私は、素手で『種』を壊そうと決意していた。
だが不意に後ろから、完全に気を失ったアレックスが倒れてきたのである。その弾みで、彼の持っている剣に気付いたのだ。
そして倒れる寸前でそれを振り上げ、辛うじて『種』を斬っていた。
いや、斬ったというよりは寧ろ、触れたと言うべきかもしれない。
ゼリューの言った通り、種はそれだけで粉々に砕け散ったからだ。
と同時にアレックスの剣も、触れた刃部分だけがすっぽりと、抜け落ちたかのように熔けてしまったのである。
「だが未だに信じられぬ。
まさか俺自身がそのことを、全く憶えていないとは。
この前の出来事といい、一度ならず二度までも記憶を失ってしまうとは、何たる不覚!
ディーンの言うとおり、俺もまだまだ未熟ということか。
やはりこれは後の魔王との決戦に備え、故郷で一から鍛錬を積むしかあるまい」
アレックスは拳を握り締め、いつものように熱く何事かを一人で呟いていた。
が、取り敢えずそれは放っておくとして。
「モンスター・ミストのことだけど……魔物の集まる原因が瘴気だということを、ギルドでは既に把握していたのよね。
そのことをルティナも知っていたの?」
「当然だ。その手の情報や噂話の類は、最初の発生時から流れていたらしいからな。
ギルドが断定を下したのは、それから数年後のことだ」