ゼロクエスト ~第2部 異なる者
エピローグ
そこはゴツゴツとした岩壁で囲まれた場所だった。
光源となるものがないわりには、周囲が明るい。
だがここはそのように創られた空間だ。
「久しいな、ゼリューよ」
出入り口の全く見当たらないその場所で、抑揚のない女の声だけが静かに聞こえてきた。
「昔と少しも変わってはおらぬ」
低い天井から地上へと、仕切りのように何本も連なる岩柱。
その向こうで堂々と胡座(あぐら)をかいている者に対して、彼女は表情を崩さずに言葉を続ける。
「貴様が変わらぬのも無理はない。『禁術』によって肉体は疾うに失われ、意識体のみの存在となっておるのだからな」
彼女は左肩に乗っている傀儡(かいらい)を愛おしそうに撫でながら、艶やかな真紅の瞳をゼリューへ向けていた。
「手に触れられぬ存在というのも、また厄介なものだ。
お陰で貴様を捕らえるために、入らぬ手間を掛けてしまった」
「お前が外から監視していたのは知っていたが、まさか俺を生け捕りにするつもりだったとはな」
ここでようやくゼリューが口を開いた。彼の口調もまた平坦で、何の感情も見られない。
「あの中に入れたのは、貴様の認証傀儡のみ。
だがアレらは既に処分済みだ。
使い魔はもういない」
「で、俺だけを生かしてどうするつもりだ。
お前は俺を相当憎んでいたはずだろう? サラ」
ゼリューは口端を上げ、挑むような視線で相手を睨め付けた。
それを受けた彼女の緋色の瞳が、瞬間的に歪んだかのように見えた。