ゼロクエスト ~第2部 異なる者
私は気が付けばいつものように、無意識のうちに左腕を強く掴んでいた。

最近の私は中位、或いは上位クラスの女に付けられた用途不明の刻印を、服の上から手で押さえ付けるのが癖になっている。

その部分を無意識に庇おうとでもしているかのようだった。全く意味のないことだとは分かっているのだが、凄く不安なのも事実だ。

今のところ、この紋様が発動する気配はなかった。

しかし普段あまり考えないようにしていることとはいえ、いつ何時発動するのかも分からないのだ。自分の変調を予測できないということは、私にとってはこの上ない恐怖だった。

(一刻も早く、先へ進まないといけないのに……こんなところで足踏みなんかしている暇はないのに)

私にはやるべきことがある。この旅が終わったら故郷で、父とともに村を守るのだ。

私はおもむろに前方を仰ぎ見た。そこには建物の隙間から除いている、剥き出しの山肌が見えていた。私たちが今目指しているのは、あの場所だった。

目的地は目前、もう麓まで来ているのだ。

「エリスさん〜突然立ち止まって〜どうかされましたか〜?」

その声で我に返ると、エドが私の顔を見て首を傾げていた。

「あ……ううん、何でもない」

私が慌てて彼の後についていこうとした時、直ぐ脇の建物の陰から、何かが躍り出てくるのが見えた。


瞬間。

ザシュッ。


空を切り裂くような音が聞こえてくる。同時に悲鳴。

それはすぐ目の前だった。

傾いていく身体からは飛沫が上がっているのが見える。
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