ゼロクエスト ~第2部 異なる者
◇ ◇ ◇
(ヤレヤレ、ですな)
彼は放っていた火焔を止め、目の前で発光している黒いモノから手を離した。
ソレは微かな羽音を立てて空中へ浮かび上がると、彼の右肩に舞い降りる。
「まだあの辺りに潜んでいるとは思っていましたが、お陰で目標を捉えることができました。
しばらく張っていた甲斐があったというものです」
彼は眼を釣り糸のように細めると、独りごちた。
周囲には誰も居ない。居るのは肩に乗っている傀儡のみ。
この傀儡は以前、主から与えられたモノだった。
『対』でなければ役に立たない傀儡(モノ)であったが、今そこに居るのは一匹だけである。
もう一匹は先程空間を介し、攻撃を放った先に居る。
(しかしわたくしの認識も、どうやらかなり甘かったようですね。
後で愚者の尻ぬぐいをせねばならぬとは……それに主様が、あの者に接触していたことも想定外でした)
時々主(あるじ)が側近に何も告げず、ふらりと行動することはあった。
だが主は、今回の接触相手を毛嫌いしていたはずだ。故に自ら訪問するなど、彼にとっては予想外。
後日それを告げられた時には、流石の彼も驚愕したものだった。