ゼロクエスト ~第2部 異なる者
「昨日ディーンからは、あれほど駄目だって言われていたわよね」

「それは修行ができると仮定した場合の話だ。
しかし今は状況が違う。外へ出られぬでは修行にならないからな。
このままでは魔王を倒すどころではなくなってしまう」

「んな大袈裟な。出られないといっても、ほんの数日程度じゃない」

エドの話では、霧は約1週間程度で消えるらしい。討伐隊の編制時期から推測すれば、ここに足止めされるのは最低でも1〜3日くらいのものだろう。

「たかが数日といえども、少しでも身体を動かさなければ感覚が鈍ってしまう。
昨日は討伐隊へ参加することよりも、修行のほうを優先した。だがこの状況では参加しながら修行をする以外、道がないではないか!」

いつものように拳を握り、堂々と宣言した。

(アレックスって、修行のこと以外は頭にないのね。
クソ真面目なのかただの馬鹿なのか、判断が難しいところだわ)

頭を押さえて呆れていると、アレックスが突然私を抱き寄せてきた。そして素早く建物の陰に連れ込まれる。

そこは表の通りとは違って薄暗く、狭い路地だった。建物間の隙間のような場所である。

「な……急にどうかしたの?」

後ろから抱き竦められた格好になっていたのでかなり焦っていたが、私は何とか冷静さを保ちつつ、警戒するように表通りを窺っている彼に向かって尋ねた。

「うむ。どうも昨日から誰かに見張られているような気がするのだ。
それに今一瞬だけだが、殺気のようなものも感じられた」
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