ゼロクエスト ~第2部 異なる者



◇ ◇ ◇





あたしは予定より少し遅れていたが、アクニカ村へは無事に辿り着いていた。

が、あたしの機嫌は頗(すこぶ)る悪かった。

「……っくしょう、あンのクソガキっ!!
今度見つけたら絶対、ブッ殺す!!!」

あたしの放つ殺気に触れまいとするかのように、周囲を行き交う人々が遠巻きに避けながら通り過ぎていく。

いつもならこれほど簡単に撒き散らしたりはしないのだが、それも無理からぬことだった。

財布を掏(す)られたのだ。

犯人は混雑中のどさくさに紛れて派手にぶつかってきた、さっきのクソガキ!

いつもなら気付いた時点で捕まえているところだ。

しかしその時のあたしは、この前食べ損ねたアクニカ村名物の『ソフトアイス』を、2本同時に抱え込んでいたために反応が遅れてしまった。

その上ぶつかった衝撃で両方とも、地面に落としてしまったのだ!

兎にも角にも、このあたしの懐から財布を盗むだなんて、かなり良い度胸をしていやがる。

今度見つけたら両手足に、岩男(ロック・マン)を括り付けてす巻きにし、何十もの鍵を掛けた保管箱に閉じ込めて、海底の奥底へと必ず沈めてやる!!!

あたしがそう息巻いていると、左眼が急に疼いてきた。

どうやらこの近くに魔物がいるらしい。

が、特に珍しいことではない。

このような街中の人混みであっても、大抵何匹かは魔物が紛れ込んでいるからだ。
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