【短】恋ごころ
「ちょ、何ボーっとしてんのよ」
「あ、ごめん」
「で、その人の事、明日美も知ってるでしょ?」
「あぁ、まぁ…」
曖昧な返事を返したあたしは、またすぐに沙耶から視線を逸らす。
「つか、ぜーったいイズミの事だからヤってるよね?あのイズミが会ってヤらない訳ないもんね。つか、イズミも懲りないよなー」
「……」
「イケメンには目がないもんね」
沙耶の声を微かに聞きながらあたしの頭の中はタクヤの事で一杯だった。
授業が始まって結局あたしは6時間目までボンヤリとしたままだった。
朝いちに沙耶が言っていた話が嫌なくらい頭の中を過って気分が悪くなりそうだった。
沙耶が見たのはタクヤじゃなく見間違えだったってそう思わせたい。でも危ない意味で名前を知られているタクヤの事を沙耶が見間違える訳がないって何故かそう思ってしまった。
沙耶にはあたしとタクヤの関係を言っていない。
高校に入ってすぐに出来た友達にそんな事は言えなかった。たとえ友達だとしても身体を重ねるだけの男が好きだなんて嫌でも言えなかった。
そして凄く仲良くなった今更…そんな事言えない。
ましてやあのタクヤだ。名前が広がるくらいのタクヤの事なんて何も言えなかった。