【短】恋ごころ
「…と言うか借りても返す時ないから」
「あ、いいよ。いいよ。別に返さなくてもいいから」
「いや、でも…」
「リオがいいって言ってんだから貰っとけよ。こいつ、他にもいっぱい持ってっから。だから返す心配とかしなくていーから」
そう言ったカケルくんはリオさんが持ってた傘を奪い取り、あたしの手に無理矢理握らせる。
「あ、でも…」
必然的に受け取ってしまったあたしは、自分の手にある真っ赤な傘を見つめた。
「じゃ、またね」
リオさんの声に顔をあげるとリオさんは微笑んで手を振る。
そしてリオさんとカケルくんはあたしに背を向けて歩きだした。と、思ったらすぐにカケルくんがクッと振り返りあたしは首を傾げる。
「あー…つかさ、アイツ。…タクヤ何してんの?」
「へ?」
思わない言葉にあたしの口から小さく漏れる。
「タクヤ。最近、来ねーんだけど何か知ってる?」
「いや…何も」
「そっか。まぁ別にいいけど。…んじゃ、気をつけて帰れよ」
そう言ったカケルくんは再びあたしに背を向けてリオさんと歩きだした。