【短】恋ごころ
仕方なく鞄から携帯を取り出し、タクヤの名前を呼び出す。
避けて一カ月近く。今更、掛ける事に躊躇したが手に持っている傘が気になりすぎた。
だから受け取ってしまった事に凄く凄く後悔した。
傘なんて受け取らなかったらタクヤと会う事なんてなかったのに…。そう思いながらあたしは耳に携帯を押しあてた。
「はい」
暫く鳴り続けてから出たのは低い低い声を出したタクヤ。
いかにも機嫌が悪そうな声。
「あたし…」
「どした?」
「今、タクヤの家の前に居るんだけど」
「は?」
いかにも何でって声を出すタクヤにあたしは息をのみ込む。
「あのさ、傘をさ、」
「つか、そこで待ってろ。すぐ帰っから」
「いや、いいの。用件だけ聞いてくれたら」
「だから帰ってから聞くから待っとけ」
「いや、」
プツンと一方的に切れた電話にあたしは唖然としてしまう。
居ないなら居ないで用件だけ言って帰ろうとした。言いたかった事も、別にどうでもいいやって思ってた。
帰ろうと思ってたのに…
思ってたのに…
帰れないじゃん。