【短】恋ごころ
Γ玄関にある真っ赤な傘。あれ、この前リオさんに会った時に借りたんだ。別に返さなくていいって言われたけど、そうにはいかなくて」
“だから、タクヤが返してて”
付け加える様にそう言って、あたしは鞄を抱えてタクヤの家を出た。
タクヤは全く、あたしに聞きもしなければ何も言わなかった。
ちょっとは期待してたのかも知んない。
タクヤが“待て”って言って追い掛けてくんじゃないかとも思った。
でも、そんな事なんて何もなかった。
やっぱタクヤはあたしの事は何も思ってなかったんだって心底そう思ってしまった。
「…にしても、あれはなかったかな」
声にだしてしまった事に思わずため息が出る。
“好きな人、出来た”
ありもしない馬鹿な事を言ってしまった自分に少し後悔してしまった。
でも…だって、そうする事によって吹っ切れた感じになって少しでもタクヤの事忘れられるかな。なんて思ったんだもん。
けど実際はそうにもいかない。