【短】恋ごころ
車が走行している間、笑い声とともに話に夢中になっていて名前とか名乗られたけど、そんなの覚えてない。
苦痛だ。
タクヤに会った後だから余計に苦痛だ。
「明日美、着いたよ」
暫くたって声を掛けられるとともに、あたしの身体を沙耶は軽く揺する。それにハッとしたあたしは窓の外を見た。
もう外はとっくに日が沈んでいて、辺りは暗くなってた。
皆が降りた後を気だるそうに降りたあたしは軽く一息吐く。
「ねぇねぇ、沙耶?」
先を行く沙耶にあたしは戸惑い気味に声を掛ける。
「何?」
そう言って振り返る沙耶は少し首を傾げる。
「何処、行くの?」
「あー、クラブだよ」
「ク、クラブ?」
「うん。楽しいよ」
「いや、あたし行った事ないんだけど」
「それがさ、案外いい所なんだよ。明日美もはまるよ?」
「そうかなぁ…」
ルンルン気分の沙耶とは対して複雑な気分であたしは足を進める。
クラブって…そんなの考えた事も行きたいって思った事も一度もないよ。