【短】恋ごころ
一瞬、何もかも言葉を失ったような感覚に襲われた。
見た事ある女の人。タクヤと同じ学校の制服を着た女の人。
だって…
だって、タクヤが好きな女の人が目の前に居るんだもん。
「あぁ。つか、お前らは何してんだよ」
「何って見かけたから。つか、リオが喉乾いたって言うから」
タクヤと同じ制服を着た男はそう言って隣に居る女の人に指差す。その指先を追うようにあたしは女の人に目を向ける。
リオって言うんだ、この綺麗な人…
「ふーん…」
「つか、お前の女?」
その瞬間、目の前に居る二人の視線が一気にあたしへと向く。
「いや、違うけど…」
タクヤが呟いて直ぐだった。2人の視線を避け、あたしの視線が地面へとゆっくり落ちて行く。
だよね。
あたしはタクヤの彼女でも何でもない。ただの身体を重ね合わす程度の仲。
そんな事、馬鹿すぎて言える訳がない。
タクヤはどう思ってんのかしんないけど…
「ねぇ、タクヤ?真面目に来ないと留年しちゃうよ?」
リオさんは少し顔を顰めたままタクヤに言う。
「そうそう。お前もうヤバいだろ?」
「つか、お前には言われたくねぇよ。行ってても授業受けてねぇお前にはな!」
「そうだよ。そんな事カケルが言う筋合いまったくない!!」
「ほら、リオも言ってんじゃん」
「はいはい」
3人の会話をただただあたしは茫然としたまま聞いてた。
あたしには全く入れない会話に気分が重くなった。