僕が彼女といる理由
『あ〜、ごめん。
なんか大学行ったら…』


ドアノブに手をかけてた彼女の手が
わずかに震えた気がした。



『…入れば?』


彼女は僕の言葉を遮るように
部屋に招き入れた。



部屋に入ると、殺風景な部屋に不釣り合いな
花束が飾ってあった。



僕の視線に気付き
彼女は照れたように言った。



『…陽太から。

意外とマメでしょ?
ちょっと恥ずかしいくらい…』



やっぱり陽太は元気なんだ。

僕は自分の胸のもやもやした不安を
ほっと撫で下ろした。



『なんだよ…
あいつ心配させやがって』


彼女は『ほんと…』とか細い声で
言って笑った。



『病院聞いたから見舞い行くか?

あ…でも花束届けに来たってことは
もう退院してんのか?』




彼女は首を振った。



『じゃあ、病院…』





『陽太、昨日の雷で…

朝早くに亡くなったんだって』



?



亡くなった?




『まぁ座りなよ』



立ち尽くしてる僕に
彼女は少し笑いながら言った。



彼女のその態度があまりに普段通りすぎて、
まるで僕は二人にいつものようにからかわれて
騙されてるんじゃないかという気持ちになった。



『…はは…

……変な冗談…』



でも、僕からでた声は乾きすぎて
頼りなく空に消えていった。



『…本当なの。』



彼女の声がやけに響いて聴こえた。



『…っ、なんで?!

おまえ、ふつーに…』



…笑ってるじゃん。



『実感ないのよ。

メールも花束も普通に届いて…

なんか…ね…。』



彼女は2つのコップに
麦茶を注いでいる。



1つを僕にくれ、
もう1つを自分の口につけた。



僕も黙ってそれに口をつけた。




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