僕が彼女といる理由
『じゃあ、ありがとうね』
ジッポを持った手を軽くあげて
意外と早い歩幅で階段を降りていったから
姿はすぐに見えなくなっていた。
…不倫、ではないのか…。
安堵と共に身体の中心を蝕むような
キリキリとした痛みが襲った。
部屋に帰ると、百合は座りながら
缶を片手にテレビを見つめていた。
何をそんな見ることがあるのか
と思うくらい微動だにせず…
テレビの画面には最近人気のお笑い芸人が
お客さんをどかどか笑わせていた。
百合の顔は、ただ、どこでもない一点を
とらえているかのようで…
全く笑っていなかった。
あ…!
以前来た時はあっただろうか…?
テレビの横に飾られていた
僕ら三人の写真が…
陽太がいなくなっても
変わらず置いてあって
それが忘れない絆に思えて
きっとそれがどこかで僕を
安心させてたのかもしれない
『優斗?どーしたの?』
部屋に入った僕に気づいた百合は
いつもの笑顔で僕を見ていた。
そーだよな……
態度は変わらずにいてくれるだけでも…
『いや、何でもないんだ…』
まただ…
キリキリとした痛みが
じわじわと身体の奥からあがってきた。
”不倫”じゃないなら
百合と幸森さんの関係も問題ない恋人だった。