僕が彼女といる理由
僕は相手が幸森さんだと感じると

いたたまれない気になっていた…



百合の肩が震えて

もう一度、か細い声で

『愛してる…』と言ったんだ。


最後の方は聞き取れないくらいの
消え入りそうな声で…



僕はおもわず後ろから抱きしめていた。



びっくりした顔の百合が

触れるくらいの距離にあったから…


その瞬間、ささやかに自然に
僕の身体を離す百合に

何かに火がついたように

さらに力を入れて抱き締めていた。



ゴトリッと床に落ちた百合の携帯から
幸森さんの声が聞こえ

何を言ってるかまではわからなかったけど

僕はそれを勝手に切った。




『…なに?!』



百合は相変わらず僕の身体を
引き離そうとしたけれど

しばらくすると諦めたように静かになった。




強くもないのに飲みすぎた酒は
僕の本能を突き動かしていた。





…百合があんなに悲しそうに言うから…





悲鳴のような『愛してる』は
『愛してない』ってことだよ。






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