黒の歌姫
「しいの木にも精霊が宿っているなんて言わんだろうな」
「あら、もちろんいるわよ。ただ、〈赤い大陸〉の精霊は、あなたたちの神に長い間押さえつけられてきたから、自己主張することを知らないだけ」
〈赤い大陸〉――ベルー族は海を挟んだ隣のスラード大陸をそう呼んでいる――から征服者達が来るまでは精霊と共に暮らしていた、というのがソニアの言い分だ。今でもベルー族には、森や河に隠れ住む精霊達の声が聞こえるとも言っている。
ランダー自身は迷信深いほうではなく、神官達が説きつづける天の神の救いすら当てにはしていなかった。が、カディス城邑でソニアの護衛を受けて以来、確かに何度も理屈では説明できないような目に合っている。ソニアはその度、いろいろ説明するのだが、ランダーにしてみればそれが精霊だろうと悪魔だろうと、どちらでもかまわなかった。剣で切れるものは現実であり、切れぬものは幻にすぎない。
「あっちには」
ランダーはあごで村の方を示して言った。
「迷信深い奴らが住んでいる。それだけのことじゃないのか?」
「迷信深くなるのには、それなりの理由があるものよ。水の神が害をなしているのか調べなきゃ」
「あら、もちろんいるわよ。ただ、〈赤い大陸〉の精霊は、あなたたちの神に長い間押さえつけられてきたから、自己主張することを知らないだけ」
〈赤い大陸〉――ベルー族は海を挟んだ隣のスラード大陸をそう呼んでいる――から征服者達が来るまでは精霊と共に暮らしていた、というのがソニアの言い分だ。今でもベルー族には、森や河に隠れ住む精霊達の声が聞こえるとも言っている。
ランダー自身は迷信深いほうではなく、神官達が説きつづける天の神の救いすら当てにはしていなかった。が、カディス城邑でソニアの護衛を受けて以来、確かに何度も理屈では説明できないような目に合っている。ソニアはその度、いろいろ説明するのだが、ランダーにしてみればそれが精霊だろうと悪魔だろうと、どちらでもかまわなかった。剣で切れるものは現実であり、切れぬものは幻にすぎない。
「あっちには」
ランダーはあごで村の方を示して言った。
「迷信深い奴らが住んでいる。それだけのことじゃないのか?」
「迷信深くなるのには、それなりの理由があるものよ。水の神が害をなしているのか調べなきゃ」