黒の歌姫
「へそを曲げた古い神に説教するよりほかにすることはないのか?」
 ランダーがうんざりしたように言う。
「ひどい言い方ね!」
 ソニアは憤慨した。
「何の敬意も受けられない精霊が、しだいに神性を失って妖魔になることは当然の事なの。問題は〈赤い大陸〉と違って、ここの精霊には大きな力があることよ。ほうっておけば、人間たちを滅ぼしかねないわ。もとはといえば、あなたたち、〈征服者〉のせいなのですからね」
「三代以上も前のじい様達の悪行を責められてもなぁ」
「ランダー!」
――やれやれ、また面倒な事になりそうだ…
「わかった。まず先に村に行ってみよう。迷信にかられた奴らなら、湖から来たのがばれてみろ。魔物の仲間にされて、八つ裂きにされかねん」
「そうね。でも、湖にも行くわよ」
「ああ。また見境なく瘴気を吐き出すようなやつじゃないといいがな」
「ねえ、ランダー」
 ソニアは両手を腰にあててランダーを見上げた。
「今まで何を見てきたの? 荒ぶる精霊を鎮めることくらいわけないわよ」
「分かっている。だが、お前が鎮魂を終えるまで剣を振るい続けねばならん俺の身にもなってほしいものだ」
 ソニアはべーっと舌を出した。
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