黒の歌姫
二人が小さな村に着いた頃には、日はすっかり昇っていた。そこは、街道沿いにいくらでもある、典型的な農村のように見えた。
 山側のやや小高い場所に赤い屋根の寺院があり、それを取り囲むように畑や牧草地が広がっている。その間には石造りの農家が点在していた。そして、ここにも大量の十字架の柵がはりめぐらされていた。
「まるで、戦いが終わった戦場だな」
 あたりを見回したランダーがつぶやくように言った。
「冗談いわないで。ここはとても平和でのどかそうじゃない」
「そうかな。俺には死の匂いがするが……何もかも死に絶えた後の静けさのような」
 ランダーはソニアのように不可思議な、霊的な力の持ち主ではなかったが、幾多の戦いをくぐり抜けているうちに、生命が消えゆく時の独特な気配に敏感になっていた。
 ソニアもゆっくりと、あたりを見回した。
確かに奇妙な違和感を覚えた。晴れわたった空の下、畑には人影がなく、牧草地には羊も牛もいない……
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