黒の歌姫
「さあ、どうぞ」
サイラはドアを開いて、ソニアに手招きした。
その部屋は店の二階にあった。
ソニアが部屋に入って最初に目に入ったものは、中央に置かれた仕立て用のテーブルでも、奥のほうにぶらさがっている女物の服でもなく、窓の側にぽつんと置かれた布張りの椅子だった。白い人影がそこに座って窓の外を眺めている光景が心に浮かんだ。
「どんな色がお好き?」
サイラの声にソニアは現実に戻った。
「そうね、青とか緑がいいわ」
サイラは、何着かの服を持ってきてテープルの上にひろげはじめた。
「どちらからおいでになったのですか?」
「カディスよ。南部の。知っている?」
ソニアの問いにサイラは首を横にふった。
「一年中、花が咲いていてかぐわしい香りがするのよ。夜風にのって恋の歌が流れてくる――そんなところだったわ。ランダーとはカディスで出会ったのよ。ええ、下にいる彼のことよ」
「恋人?」
「だといいんだけど。彼、お堅くて。てんで相手にしてもらえないわ」
ソニアはそう言いながら、窓ぎわの椅子に近づいた。
サイラはドアを開いて、ソニアに手招きした。
その部屋は店の二階にあった。
ソニアが部屋に入って最初に目に入ったものは、中央に置かれた仕立て用のテーブルでも、奥のほうにぶらさがっている女物の服でもなく、窓の側にぽつんと置かれた布張りの椅子だった。白い人影がそこに座って窓の外を眺めている光景が心に浮かんだ。
「どんな色がお好き?」
サイラの声にソニアは現実に戻った。
「そうね、青とか緑がいいわ」
サイラは、何着かの服を持ってきてテープルの上にひろげはじめた。
「どちらからおいでになったのですか?」
「カディスよ。南部の。知っている?」
ソニアの問いにサイラは首を横にふった。
「一年中、花が咲いていてかぐわしい香りがするのよ。夜風にのって恋の歌が流れてくる――そんなところだったわ。ランダーとはカディスで出会ったのよ。ええ、下にいる彼のことよ」
「恋人?」
「だといいんだけど。彼、お堅くて。てんで相手にしてもらえないわ」
ソニアはそう言いながら、窓ぎわの椅子に近づいた。