黒の歌姫
明るい藍色の空には星が一つ二つ、かすかな輝きを見せている。旅立つには少し時間が早すぎたようで、ベルー族の少女が風の冷たさに思わず身を縮めた。
「寒くて凍えちゃいそうよ、ランダー」
 少女は不満げに言った。
「寒いって言ったって、夏に凍死したなんて話は聞いたことないぜ」
 ランダーと呼ばれた赤毛の男は、いつものようにそっけなく答えた。そして、たいていの若い娘なら口ごもってしまうような、厳しいまなざしで言葉を続けた。
「何度も言っているだろう。俺達は北に向かっているんだ。もういい加減にその薄っぺらい布切れを着るのはやめるんだな」
 少女はため息をつきながら、自分の服装をあらためて見た。
 光沢のある青い絹地のパンツは、ゆったりとしたシルエットで動きやすい。銀色のビスチェも、幾重にも重ねた細い黄金の輪で飾られた胸元の美しさを引き立てているし、むき出しの肩と腕は、繊細なレースの長いベールに優しく守られている――悪くはない。南国の空の下、灼熱の太陽が相手ならば。
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