黒の歌姫
「つまんないの! 男の人ってこれだから」
 ソニアはおおげさにため息をついた。
 サイラはクスクス笑って、手に持った布をソニアに差し出した。
「ああ、そうね。これもいるんだったわ」
「なんだそれ?」
「マントよ。マ・ン・ト」
 ソニアにしては地味な色を選んだものだとランダーは思った。あるいはそれしかなかったのかもしれないが。
「品代はいくらだ?」
「金貨でお支払いいただきましたわ」
 サイラが言った。
「金貨だって?」
 ランダーは目を丸くした。
「お前、そんなもの持っていたのか?」
「この前の城邑で腕輪を一本売ったの。お金も少しは必要かなと思って」
 ソニアはあっさりと答えた。
 ランダーは首をかしげた。確かにこれだけジャラジャラつけていたのでは、一本や二本減っても気がつかないが、いつもランダーのまわりにまとわりつくようにしている彼女が、いつそれを売ったのだろう?
 ランダーのいぶかしげな顔を見たソニアは、サイラにむかって片目をつぶってみせた。
「ほらね。男の人ってなぁんにも分かっていないのよ」
 サイラはおかしそうに笑った。
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