黒の歌姫
「〈歌姫〉よ、なんとも奇妙なお姿だの」
 水の精霊は、例のせせらぎを思わせる声で楽しそうに言った。
「ああ、これ?」
 ソニアは自分の衣服を見下ろした。
「向こうの村で買ったのよ。これからもっと北へ行くの。ユースまでね」
 すると水の精霊は驚いたようだった。
「かの古都へ行かれるのか、〈歌姫〉よ」
「そうよ」
「今は荒れ果て、〈赤い大陸〉の者どもが治めていると、噂に聞いたが」
「あたしもそう聞いているわ。でも行ってみたいの」
 ソニアはそう答えながら、再び弦をつまびきはじめた。
「よい音色だ。昔は空気の中にもそのような音色が満ちていたというのに――〈歌姫〉よ、後ろのお供に楽にするように言っておくれでないか。どうにも落ち着かぬ」
「――だ、そうよ、ランダー」
 ランダーは軽く肩をすくめると、剣の柄から手を離した。
「このような荒鷲を手なずけるのは大変であろうな」
「そうでもないわ。見た目よりずっと優しい人だから」
 自分がこの場にいないような話し方をされるのは気に食わなかったが、ランダーは黙っていた。
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