黒の歌姫
「ところで〈歌姫〉よ、村に寄られたのなら、店の娘には会われたか?」
「サイラのこと?」
ソニアは小首をかしげて答えた。
「元気そうだったけど……彼女を知っているの?」
水の精霊はかぶりをふった。
「妹娘ではない。姉のアマナのほうだ」
「お姉さんは一年前に亡くなったとサイラは言って――」
ソニアの言葉が終わらぬうちに、湖面は大きく波立ち、水の精霊のまわりで大きな渦となった。
「なんと、あれは死んだのか!」
水の精霊は悲痛な声で叫ぶと顔を覆った。
湖水の色はさらに鉛色に変わり、嵐の日の激しさで白波が打ち寄せた。
ソニアは再び七弦琴を弾きながら、歌い始めた。自然の怒りを鎮めるための歌だったが、今回ばかりはあまり効果が感じられない。水の精霊は、ソニアの呪歌も心にとどかぬほど嘆き悲しんでいるのだ。
湖水が生き物のようにふくらむ。
ランダーは迷わずソニアを後ろから抱きかかえると、近くの白樺の幹に彼女を押し付け、覆い被さるように幹にしがみついた。
「サイラのこと?」
ソニアは小首をかしげて答えた。
「元気そうだったけど……彼女を知っているの?」
水の精霊はかぶりをふった。
「妹娘ではない。姉のアマナのほうだ」
「お姉さんは一年前に亡くなったとサイラは言って――」
ソニアの言葉が終わらぬうちに、湖面は大きく波立ち、水の精霊のまわりで大きな渦となった。
「なんと、あれは死んだのか!」
水の精霊は悲痛な声で叫ぶと顔を覆った。
湖水の色はさらに鉛色に変わり、嵐の日の激しさで白波が打ち寄せた。
ソニアは再び七弦琴を弾きながら、歌い始めた。自然の怒りを鎮めるための歌だったが、今回ばかりはあまり効果が感じられない。水の精霊は、ソニアの呪歌も心にとどかぬほど嘆き悲しんでいるのだ。
湖水が生き物のようにふくらむ。
ランダーは迷わずソニアを後ろから抱きかかえると、近くの白樺の幹に彼女を押し付け、覆い被さるように幹にしがみついた。