黒の歌姫
「荷物の中にはこんなのしかないのよ」
 少女は悪びれるふうもない。
「次の街で買え」
「次の街って、まだまだ先でしょうね」
「だろうな」
「それまで凍え死にしなけりゃいいけど…」
 少女の大げさな口ぶりに、ランダーの厳しい顔がほころんだ。
「負けたよ、ソニア」
 ランダーは止め金をはずすと、自分の着ていたマントを少女の方に放り投げた。
「それでも着ていろ、追い剥ぎめ」
 防水のために、油抜きしていない羊毛で織られたマントは少し重かったが、少女は器用に馬上でそれをはおった。
「愛してるわ、ランダー」
 ソニアはくすくす笑いながら言った。
「勘弁してくれよ」
 ランダーは顔をしかめた。
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