黒の歌姫
「そなたにできなくとも、そなたの荒鷲ならばできよう。我を打ち殺してくれ!」
「いいだろう」
 ランダーはそう言うと、手にした長剣をすらりと抜いて構えた。ソニアがぎょっとしたように立ちあがりかけたが、彼は目線でそれを制した。
「だが、水の神よ。俺が納得できるだけの説明はしてもらうぞ」
 水の精霊の美しい顔が苦しげにゆがんだ。
「あれを愛していた」
 水の精霊はふりしぼるような声で言った。「心底、愛していた。あれがいないのなら、もはやこの世にいないのなら、いっそ滅びてしまいたい!」
 ランダーは深い哀れみを覚えた。
 大切な人を失う苦しみは、彼もよく知っていた。残酷な運命を嘆き、おのれの無力さを呪うしかない。だが、どんなに悲しんでも過去は二度と戻りはしないのだ。
 ランダーは深く息を吸いこむと、低く落ち着いた声で話し始めた。
「この一年間、彼女がこの世にいなくても、あんたはこの湖を護り続けることができたはずだ。これからだってできるさ」
 荒れ狂っていた湖水が、急に静まった。
 水の精霊は力の抜けた目でランダーを見返した。
「あれが生きていると、幸せに暮らしていると思うことで何とかやってきた。だが、もう疲れ果てた」
「サイラのお姉さんは、あなたの恋人だったの?」
 ソニアがきくと、水の精霊は悲しげにほほ笑んだ。
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