黒の歌姫
「何年も前のことだ。アマナは家族と舟遊びをしていて小舟から落ちた。我は、あれを抱きとめて水面まで送り返してやった。あれの目はみなぞこ水底のように青くきれいだった。あれを連れ去りたいと何度思ったことか……だが、できなかった。人の子の姿をとって夜にまぎれて訪ねゆくのがやっと。だが、ほどなく水門におぞましい十字の柵が立てられた。あれとはそれ以来会っていない」
「彼女はあなたが人の子ではないことを知っていたのかしら?」
水の精霊はうなずいた。
「知っていた。だからこそ、あの柵で我を追い払ったのだろう」
「追い払った? サイラの話だと――」
ソニアは小さくくしゃみをした。
「ごめんなさい――サイラの話だと、お姉さんはいつも窓から外を眺めて、誰かを待っているようだったって……あれはあなたのことではないの?」
水の精霊は考え込むように眉をよせた。
ソニアがもう一度、くしゃみをした。すると、ランダーがたまりかねたように口を挟んだ。
「話は後にしてくれないか、水の神。あんたは平気かもしれないが、こっちは生身の人間なんだ。風邪をひかせたくない」
「すまぬ。そうだったな」
ザッという水音とともに、水の精霊の姿は湖水に溶けこんでいった。
「彼女はあなたが人の子ではないことを知っていたのかしら?」
水の精霊はうなずいた。
「知っていた。だからこそ、あの柵で我を追い払ったのだろう」
「追い払った? サイラの話だと――」
ソニアは小さくくしゃみをした。
「ごめんなさい――サイラの話だと、お姉さんはいつも窓から外を眺めて、誰かを待っているようだったって……あれはあなたのことではないの?」
水の精霊は考え込むように眉をよせた。
ソニアがもう一度、くしゃみをした。すると、ランダーがたまりかねたように口を挟んだ。
「話は後にしてくれないか、水の神。あんたは平気かもしれないが、こっちは生身の人間なんだ。風邪をひかせたくない」
「すまぬ。そうだったな」
ザッという水音とともに、水の精霊の姿は湖水に溶けこんでいった。