黒の歌姫
丘の上の寺院は、白壁と赤い瓦屋根を持つ典型的なスラード大陸式の建物だった。そして、ここにもやはり十字架の柵がはりめぐらされている。
むせ返るような甘い香りが鼻をつき、馬が大きく首を振ってくしゃみをした。
「なにこれ。変な匂い」
ソニアは顔をしかめた。
「香を焚いているのだろう」
ランダーも思わず、手のひらで鼻と口を強くこすった。
「ああ、〈赤い大陸〉で魔よけに使うって言うやつね。ひどい匂い。魔物じゃなくたって逃げて行くわよ」
「まったくだ」
ランダーは苦笑いを浮かべた。
ランダーは馬から下りると、手綱を十字架につなぎ、そのまわりの何本かの十字架を力まかせに引きぬいて遠くへほおり投げた。
「あなた、不敬の罪で絶対に地獄に落ちるわよ」
ソニアは、そう言ってクスクスと笑った。
「天国だの地獄だのを信じていないやつがよく言うよ」
ランダーが両手を差しのべ、ソニアを抱き取った。
聖典を詠唱する声が風にのって流れてくる。寺院では、夕べの祈りの最中らしかった。
「墓地って、寺院の敷地内にあるものなの?」
ソニアがきいた。カディスでは死者は忌み嫌われ、城邑の外に埋葬されるのが常だ。
「たぶん、建物の裏手だろう。北部ではたいていそうだ」
二人は寺院の裏手にまわった。
むせ返るような甘い香りが鼻をつき、馬が大きく首を振ってくしゃみをした。
「なにこれ。変な匂い」
ソニアは顔をしかめた。
「香を焚いているのだろう」
ランダーも思わず、手のひらで鼻と口を強くこすった。
「ああ、〈赤い大陸〉で魔よけに使うって言うやつね。ひどい匂い。魔物じゃなくたって逃げて行くわよ」
「まったくだ」
ランダーは苦笑いを浮かべた。
ランダーは馬から下りると、手綱を十字架につなぎ、そのまわりの何本かの十字架を力まかせに引きぬいて遠くへほおり投げた。
「あなた、不敬の罪で絶対に地獄に落ちるわよ」
ソニアは、そう言ってクスクスと笑った。
「天国だの地獄だのを信じていないやつがよく言うよ」
ランダーが両手を差しのべ、ソニアを抱き取った。
聖典を詠唱する声が風にのって流れてくる。寺院では、夕べの祈りの最中らしかった。
「墓地って、寺院の敷地内にあるものなの?」
ソニアがきいた。カディスでは死者は忌み嫌われ、城邑の外に埋葬されるのが常だ。
「たぶん、建物の裏手だろう。北部ではたいていそうだ」
二人は寺院の裏手にまわった。