黒の歌姫
　まもなく、村の男達もやって来た。ジェイクは自分の一族の墓所が荒らされていることに気づくと、うなり声を上げながら突進してきた。
「彼を押さえて！」
　ソニアの強い命令口調につられるように、村の男達はあわててジェイクを押さえつけた。
　ソニアは、人ごみの後ろで目を見開いているサイラにすまなそうな目を向けた。
「ごめんね、サイラ。でも、お姉さんの魂を安らかに眠らせてあげなければ」
「ちくしょう！」
　ジェイクがもがきながら悪態をつく。
「あんたは俺の死んだ娘が魔物になったとでもいうのか？」
「よく見て。あなたの家の墓所よ。芝生は枯れ果て、雑草すら生えていないわ。ここだけがよ。おかしいとは思わない？」
　ソニアは、ジェイクの目の前に膝をついてすわると、その目をのぞきこむようにして言葉を続けた。
「聞いて。サイラから、お姉さんがいつも誰かを待っていたようだったと聞いたわ。その通りだったのよ。彼女が待っていたのは湖の精霊だった。でも、彼は来なかった。彼は水門に十字架が立てられたのはアマナの拒絶の印だと思ったから――始めてあの水門を見た時、何か変だと思ったわ。でも、その時は気づかなかった。あの十字架だけが古かったのね。ほかは最近立てられたものでしょう？」
「アマナが湖の魔物を待っていただと？」
　ジェイクがうなる。
「今も待っているのではないかしら。生き物の精気を吸い取りながら」
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