黒の歌姫
 その時、やっと騒ぎに気づいたのか、寺院の聖職者達が現れた。
 先頭をきってせかせかと小走りに歩いてきたのは、金襴の聖衣を身にまとった太った小男だった。
「いったい、この騒ぎは何事か?」
 小男が背伸びをして前の様子をうかがいながら一喝すると、村の男達は波が引くように道をあけた。どうやらこの男が、この寺院の司祭らしい。
 司祭はソニアの姿を見て驚き、次に顔を真っ赤にして怒り出した。
「神聖なる神の家に異教徒がおるとは、どういうことだ! 即刻、立ち去れ!」
 ソニアは上目づかいに小男を見ると立ちあがり、膝についた土をたたいてはらった。
「用事がすんだら、すぐに出て行くわ。あなた達の神は気難しい方だから、あたしもあまり長居はしたくないし」
「気難しい! 慈愛深き神になんということを!」
 司祭の赤ら顔がますます赤くなった。
「慈愛? そうかしら……あなた達の神はとても厳しい方だと思うけど」
 ソニアはとびっきりの笑顔を浮かべて言った。
「このばちあたりの異教徒めが!」
 司祭は今にも泡を吹いて倒れんばかりだ。すると、それまで黙々と土を掘り起こしていたランダーが、うんざりしたように顔を上げた。
「ソニア、いいかげんにしておけ。そいつを血圧の限界まで追い込む気か?」
「ちょっとからからっただけじゃないの。本当にお堅い人ね」
 ソニアは振り向きもせずに答えた。
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