黒の歌姫
司祭は気をとりなおすと、後ろの方で呆然と見ている神官たちを叱り飛ばした。
「何をしている! 早くこの異教徒どもをつまみ出さんか!」
すると農夫達の間から待ってくれという声が上がった。
「司祭さま、今まであんた達に頼ってきたが、いっこうにらちがあかないじゃないか」
そうだ、そうだと男達が口々に賛同する。
「俺は一財産をなくしてしまったんだ。これ以上我慢できない」
「俺のところは一人息子が殺された。魔物を退治してくれるのなら司祭だろうと〈流れる民〉だろうと、かまわねぇ!」
騒ぎにまぎれて自由になったジェイクがゆっくりと立ちあがった。彼は口元をぎゅっと引き締め、ソニアを見下ろした。
「四年前――四年も前のことだ。俺は知っていた。アマナが人ならぬ男と毎夜会っていることを。奴が湖から水門を越えてやってくることを……」
ジェイクは司祭のほうをちらりと見た。
「俺は司祭さまに相談した。司祭さまに、アマナの魂を救うために水門にしいの木で作った十字架を立てろと言われて、俺はそのとおりにした」
「あれは、あなたが立てたものだったのね。たぶんアマナは、あの十字架が何を意味するものか知らなかったんだわ」
ソニアは優しく言った。ジェイクは顔をゆがめ、今にも泣き出しそうだった。
「娘が魔物になんかなるものか。虫一匹殺せない優しい娘だったんだぞ!」
サイラが後ろからそっと父親の腕に触れた。彼女の目は涙でいっぱいだった。ジェイクは振り向き、もう一人の愛娘を力いっぱい抱きしめた。
「そうだろう、サイラ? アマナが安らかじゃないなんて信じられるか? あいつは湖の魔物に取りつかれていただけなんだ。魔物を本気で愛して、待って、待って、待ちくたびれて死んでいったなんて、俺は信じない。絶対に信じられるか!」
「何をしている! 早くこの異教徒どもをつまみ出さんか!」
すると農夫達の間から待ってくれという声が上がった。
「司祭さま、今まであんた達に頼ってきたが、いっこうにらちがあかないじゃないか」
そうだ、そうだと男達が口々に賛同する。
「俺は一財産をなくしてしまったんだ。これ以上我慢できない」
「俺のところは一人息子が殺された。魔物を退治してくれるのなら司祭だろうと〈流れる民〉だろうと、かまわねぇ!」
騒ぎにまぎれて自由になったジェイクがゆっくりと立ちあがった。彼は口元をぎゅっと引き締め、ソニアを見下ろした。
「四年前――四年も前のことだ。俺は知っていた。アマナが人ならぬ男と毎夜会っていることを。奴が湖から水門を越えてやってくることを……」
ジェイクは司祭のほうをちらりと見た。
「俺は司祭さまに相談した。司祭さまに、アマナの魂を救うために水門にしいの木で作った十字架を立てろと言われて、俺はそのとおりにした」
「あれは、あなたが立てたものだったのね。たぶんアマナは、あの十字架が何を意味するものか知らなかったんだわ」
ソニアは優しく言った。ジェイクは顔をゆがめ、今にも泣き出しそうだった。
「娘が魔物になんかなるものか。虫一匹殺せない優しい娘だったんだぞ!」
サイラが後ろからそっと父親の腕に触れた。彼女の目は涙でいっぱいだった。ジェイクは振り向き、もう一人の愛娘を力いっぱい抱きしめた。
「そうだろう、サイラ? アマナが安らかじゃないなんて信じられるか? あいつは湖の魔物に取りつかれていただけなんだ。魔物を本気で愛して、待って、待って、待ちくたびれて死んでいったなんて、俺は信じない。絶対に信じられるか!」