黒の歌姫
ソニアの歌声は、いつにも増して美しく響き渡った。
誰一人、その場を動く者はなかった。
魔物と化したアマナさえ、赤い目を見張ったままその場に立ちつくしていた。
ソニアの歌声が時を止めたかのようだった。
「アマナ、俺達を信じてくれ」
ランダーは言った。魔物と化しているとはいえ、女を斬りたくはない。
「君を湖まで連れて行く。だから、おとなしく眠ってくれ」
アマナは苦しそうに顔をゆがめた。
――だめよ。喉が乾くの。乾いて眠れない
アマナは再びゆっくりとランダーに向けて手をさしのべた。
――助けて……
その時、一陣の風が通りぬけた。
ソニアの歌がぴたりと止まった。ランダーは思わずソニアの方を見た。そして、すぐにその訳に気づいた。
穴のふちに湖の精霊がいた。
長衣の裳裾が風に舞い、精霊は両手を広げてさしのべてアマナの名を呼んだ。
「アマナ、我が乙女よ」
アマナはくいいるように精霊を見上げていた。そして彼女の口元が震え、両の目から、はらはらと涙がこぼれ落ちた。
「もう生き物を襲うのは、おやめ。我はここにいる」
――ずっと、お待ちしておりましたのに。なぜおいでになって下さらなかったのですか?
切ない言葉が唇をついて出る。
「すまぬ。そなたの真心を見誤ってしまったのだ」
――わたくしが人間だから?
水の精霊は首を振った。
「人の子であろうとかまいはしない。ただ、そなたを仲間達から引き離すのが忍びなかったのだ。その迷いが結局、そなたを追い詰めてしまった。許せ」
アマナは泣きながらうなずいた。
誰一人、その場を動く者はなかった。
魔物と化したアマナさえ、赤い目を見張ったままその場に立ちつくしていた。
ソニアの歌声が時を止めたかのようだった。
「アマナ、俺達を信じてくれ」
ランダーは言った。魔物と化しているとはいえ、女を斬りたくはない。
「君を湖まで連れて行く。だから、おとなしく眠ってくれ」
アマナは苦しそうに顔をゆがめた。
――だめよ。喉が乾くの。乾いて眠れない
アマナは再びゆっくりとランダーに向けて手をさしのべた。
――助けて……
その時、一陣の風が通りぬけた。
ソニアの歌がぴたりと止まった。ランダーは思わずソニアの方を見た。そして、すぐにその訳に気づいた。
穴のふちに湖の精霊がいた。
長衣の裳裾が風に舞い、精霊は両手を広げてさしのべてアマナの名を呼んだ。
「アマナ、我が乙女よ」
アマナはくいいるように精霊を見上げていた。そして彼女の口元が震え、両の目から、はらはらと涙がこぼれ落ちた。
「もう生き物を襲うのは、おやめ。我はここにいる」
――ずっと、お待ちしておりましたのに。なぜおいでになって下さらなかったのですか?
切ない言葉が唇をついて出る。
「すまぬ。そなたの真心を見誤ってしまったのだ」
――わたくしが人間だから?
水の精霊は首を振った。
「人の子であろうとかまいはしない。ただ、そなたを仲間達から引き離すのが忍びなかったのだ。その迷いが結局、そなたを追い詰めてしまった。許せ」
アマナは泣きながらうなずいた。