黒の歌姫
「もうそれも終わりだ。さあ、おいで。そなたを迎えに来たのだ」
 水に魅入られた乙女は、ふわりと浮かび上がるようにして、精霊のもとに近づいた。
「そなたを愛している。今までずっと。そしてこれからも永遠に」
 アマナは広げられた腕の中へ飛び込んだ。
 水の精霊は、アマナを強く抱きしめた。狂おしげに、また、いとおしむように。
 アマナもまた、しがみつくように精霊の背に手をまわした。
――お会いしたかった。どんなにかお会いしたかったか!
「これからは、ずっと共にいる。約束しよう」
 水の精霊は誓った。
 震える声でジェイクが娘の名を呼んだ。アマナは精霊の腕に抱かれたまま顔をあげた。その目は、もはや赤くはない。水底のように青く澄み、喜びに輝いていた。
 水の精霊もまた、まぶしいばかりの笑顔を浮かべてソニアに言った。
「〈歌姫〉よ。心から感謝する」
 そうして二つの影は重なり合い、霧に溶けるように消えた。後に残るは朽ち果てたされこうべと粉々に砕けた白い骨のかけらのみ。
 ランダーは長剣を鞘に収めた。
 ほっと安堵の吐息を吐く間もなく、ソニアが泣き笑いしながら彼に飛びついてきた。
「愛してるわ、ランダー」
 ランダーは珍しくソニアを抱きしめると、明るく笑い声をたてた。
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