黒の歌姫
 ランダーがソニアと出会ったのは二ヵ月ほど前の事。
その頃、ランダーはカディス城邑の囚人だった。手枷と足枷をはめられ、炎天下の強制労働にかりだされる毎日だった。
 その日も太陽は天頂で情け容赦なく照り付けていた。水も多くは与えられず、きつい仕事で囚人達はふらふらだった。
 一人の囚人がよろめいた。枷をはめた足は思うようにならず、巻き添えをくらってまわりの何人かも倒れ込んだ。とたんに監督官の鋭い鞭が飛んだ。激しい罵声と共に、囚人達は何度となく殴られ、蹴られつづけた。
 そして、最初に倒れこんだ男が死んだ。おそらく、何日も前から弱っていたのだろう。とにかく、その男の死をきっかけに、囚人達が暴動を起こすこととなった。
 そこの多くの囚人達と同様、ランダーは犯罪者ではなかった。カディス城邑と敵対しているカスタ城邑の傭兵にすぎない。カスタ領とカディス領の境界線で偵察中に、運悪くつかまっただけだった。ランダーは暴動が起きると、迷わず塀を乗り越えて逃げ出した。
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