黒の歌姫
とにかく、カディスを出なくては
長い間、枷をはめられていたために思うように動かない足がいまいましい。
走りつづけるランダーの耳をやわらかな歌声がかすめた。小鳥のさえずりのような高い音は、頭の芯までふるわせるようだった。
ランダーはひきよせられるように歌声の方へとよろめきながら歩いた。
小さな路地を抜けると、高い塀の屋敷が建ち並ぶ通りへと出た。その中に蔦の葉の絡まる鉄柵をはりめぐらせている屋敷があった。歌声はその向こうから聞こえてくる。ランダーは鉄柵をよじのほり、内側へと転がり込んだ。そこは、香りのする潅木の茂みで、ランダーは茂みに隠れるように横たわった。
ひどく疲れていた。
何日分もの疲労と睡眠不足がランダーを襲い、彼は眠った。
どれほどの時間がたってからか、ランダーは気がついた。誰かがそばにいる。全身の痛みに思わずうめくと、
「生きてるの?」
かろやかな女の声がした。シャランと優しい鈴の音も。
「死んでいるんだよ」
ランダーは力なく笑って目をあけた。
生き生きとした目のベルー族の少女がランダーの顔をのぞきこんでいた。
「あたし、ソニアよ」
少女はほほ笑んだ。何の警戒心もない笑顔にランダーは少したじろいだ
長い間、枷をはめられていたために思うように動かない足がいまいましい。
走りつづけるランダーの耳をやわらかな歌声がかすめた。小鳥のさえずりのような高い音は、頭の芯までふるわせるようだった。
ランダーはひきよせられるように歌声の方へとよろめきながら歩いた。
小さな路地を抜けると、高い塀の屋敷が建ち並ぶ通りへと出た。その中に蔦の葉の絡まる鉄柵をはりめぐらせている屋敷があった。歌声はその向こうから聞こえてくる。ランダーは鉄柵をよじのほり、内側へと転がり込んだ。そこは、香りのする潅木の茂みで、ランダーは茂みに隠れるように横たわった。
ひどく疲れていた。
何日分もの疲労と睡眠不足がランダーを襲い、彼は眠った。
どれほどの時間がたってからか、ランダーは気がついた。誰かがそばにいる。全身の痛みに思わずうめくと、
「生きてるの?」
かろやかな女の声がした。シャランと優しい鈴の音も。
「死んでいるんだよ」
ランダーは力なく笑って目をあけた。
生き生きとした目のベルー族の少女がランダーの顔をのぞきこんでいた。
「あたし、ソニアよ」
少女はほほ笑んだ。何の警戒心もない笑顔にランダーは少したじろいだ