当たらない天気予報
「…他に、欲しいのあるの?」
「…うん」
翔子が既に欲しいものがあることに、俺はびっくりした。
ここに来る前に、雑誌やインターネットで目星をつけていた?
いや、それならそれで前もって翔子は俺に言うはず。
翔子は「こっち来て」と俺を引っ張り、店の入口の方へと誘導する。
翔子の足は、さっき俺が流すように見てきたケースの前で止まった。
「これ。私、これが欲しい」
翔子が、ケースの片隅に遠慮がちに陳列された小さなネックレスを指した。
俺と恵美が選んだネックレスに比べたら笑っちゃうくらい安い、シルバーのネックレス。
小さなリボンのモチーフで、ダイヤモンドなんて勿論ついていない。
「…さっき見て、一目惚れしたの」
照れ臭そうに、俺を見上げる翔子。
すると、俺達の方にやっと店員が寄ってきた。
「ご試着、なさってみますか?」
スーツ姿の女性が、にこりと笑いかける。
柔らかくて品がある口調は、クラスの女子からも母親からも恵美からも、翔子からだって聞いたことがない。
こんな高校生にも馬鹿丁寧な言葉をかけてくれる。
…ああ、俺、場違いだ…。
こんな餓鬼だからとかじゃなくて、ここは今の俺が来ていいような店じゃない。