当たらない天気予報
店員がケースを開け、翔子が選んだネックレスを出してくれた。


「触っても、いいですか?」

「勿論です。どうぞ、おつけになってみて下さい」


翔子は壊れ物を扱うかのようにそっとネックレスを摘んで、首元に宛てた。
鏡を覗き込む翔子の横顔は、いつも車の助手席から見つめている恵美の横顔の何十倍も綺麗で。
キラリと、きめ細かい肌にリボンのそれが白く輝く。
鏡から目を離し、翔子は俺の顔を見た。


「うん、やっぱり私はこれがいい!」


翔子の元気な声が、やけに耳につんざく。
だけど、それ以上に、


「いつか、あのダイヤのネックレスも似合うようになるね」


翔子の何気ない一言に、俺はティファニーから逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
俺の見栄なんてつまらなくてちっぽけで、ティファニーには届かなくて。
そんな気も知らず、翔子と店員は打ち解けた様子でお喋りを続ける。


「プレゼントですか?」

「はい、誕生日の。私がティファニーのネックレスが欲しいって駄々こねて…私みたいなのがこんなきれいなネックレス、不釣り合いなんですけど…」

「滅相もない!優しい彼氏さんですね、羨ましいです」


俺は早くここから出て行きたくて、「そ、それ、ください!」と吃りながら、財布から親から貰って貯めていた小遣いを出した。
折り目の無い新札を、翔子に見られないように。




END.
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