当たらない天気予報


「俺…俺も、もっと一紀と一緒にいたい!」


伸ばされた手を漸く下ろした湊。
その勢いで、その両手は俺の首に絡み付いてきた。
顔を擦り寄せられて、湊の匂いが鼻腔を擽る。
抱き合うことなんて、そんなに珍しいことじゃないのに。
なんだか妙にドキドキした。
なんでなのか、分からないけど。
分からないけど、「付き合って何ヶ月目」みたいな記念日が何も無い俺達の関係だから、こういうささやかな気持ちを伝えることが、多分、普通の恋愛的交友では得られないくらい幸せなのかなって。
見えない未来は不安だ。
だけど俺達は、現在だって不安。
絡み付く湊の腕に、そっと唇を這わす。
湊のうっすら汗ばんだ肌が触れる、それがどうしようもなく幸せなんだ。


「湊の方が頭いいから、俺、もっと勉強しないと」

「いいんだよ、一紀は今はサッカーがあるから。引退してからでも間に合うよ」

「でも、模試くらい今まで以上に頑張らなきゃ」

「…一紀、どこ受ける?」

「H大はどうかな?」

「あ、いいじゃん。俺もH大は気になってた」

「文学部?経済?」

「法学部は?」

「ハードル高くねえ?」

「一紀と一緒に勉強するから、大丈夫!」


誰もいないのをいいことに、俺達はぴったり密着したまま。
密着したまま、俺はどろどろに溶けきったアイスを、カップとスプーンごとビニール袋にそっと滑らせた。
野球の猛々しい声が、遠くなっていく。
勉強しなくちゃ。一分一秒でも湊と一緒にいたいから。
俺だけ大学に落ちてしまったら、湊はきっと、その大学に行かないなんて言い出す筈。
湊にそんなこと、させたくない。






俺達の行き過ぎた友情は、行く末見えない明日を、ただ必死に紡いでいく。




END.
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