当たらない天気予報
「海なら、こないだ石田と笹谷先輩と行ったよ。笹谷先輩の運転で」
「は!?なんであたしも連れてってくんないの!?」
「いや、だってその日晴香は塾だったし」
「いやいや、誘ってくれたら塾なんて!」
しまった、言うんじゃなかった…。
晴香は「ずるいずるい」と連呼し、脚をばたばたさせて騒ぐ。
短いスカートがひらひらして、いよいよ本格的にパンツ丸見え。
「今の段階でこんな監獄みたいな生活強いられてんだよ?来年受験生になったら、どんだけ辛いんだろうね…」
しゅんと肩を落とす晴香の姿に、こっちまで憂いがうつる。
晴香といる時は、次の模試の話だとか授業の話だとか、あんまりそういう話をしない。だってそういう話は友達や先生なんかと散々してる、他でもできる。
それでも、勉強勉強って洗脳されちゃうのが夏休み。
馬鹿になって遊ぶことが許されないから、他に考えることがないんだ。
「慎吾さ…」
やっと静かになった(けどスカートはめくれたまま)晴香が、俺の名前を呼んだ。
「海に連れてってくれなかった代わりに、せめてあたしを花火に連れてってくれる気はないですか?」
ん?と首を傾げて口角を上げて、ああ、こういう表情に俺が弱いの知ってる癖に!
「……いつ?」
可愛い小悪魔のスカートの裾を直してあげる。
「今週の日曜。花火があるの、知らなかった?」
「知らなかった…」
晴香のが俺より何倍も夏を楽しむ気満々だ。
というより、夏を諦めてない。
それでいて俺より頭いいんだもん。
俺の自慢の彼女。
「ね、花火。絶対行こうね!」
約束を取り付けるように、晴香がちゅっと音を立てて俺にキスをした。
さっきまでの不機嫌はどこへやら、ゲンキンなまでに晴香はご機嫌。
それで気を良くする俺も俺で、かなりゲンキンだよね。
なんだかんだ言っても、夏の空はむかつくくらい綺麗に青いんだ。
END.